歯周病の治療で体の炎症が治まった1例
どうも、歯科医師の手塚充樹です。
新橋駅前・内幸町駅前徒歩2分の位置に令和元年9月にオープンしたヘルシーライフデンタルクリニックのブログです。
今回は、高感度CRPといって、細菌の感染があると肝臓で作られるタンパク質についてお話します。
別のブログでもご紹介しましたが、歯ぐきから血が出て、歯ぐきの血管の中に細菌が侵入すると、約70秒後には腕の血管まで細菌が到達していることが確認されています。
血管の中に細菌が侵入すると、白血球と呼ばれるいわゆる兵隊が細菌を倒しにやってきます。
正常な免疫力を備えた人であれば、白血球(兵隊)によって、細菌(侵入者)は倒されます。
しかしながら、戦いが起きた戦場にはかならず戦の爪痕が残ったり、戦いによって炎がともったことが体に知れ渡ります。
戦いが起きて、戦場で炎がともる(炎症)と、火の粉のようなもの(炎症性ケミカルメディエーター)があがり、どこかで火事が起きていることが検知されます。火事を検知すると、肝臓でCRPというタンパク質が作られるといった流れです。
CRPというタンパク質は、細菌の感染によって炎症が起こるとそれにともなって作られるものなので、どこかで感染が起きているときに血液検査から判断する際に使われます。
先ほどお話したように、歯周病によって体まで細菌が運びこまれるので、体の中で炎症が起きることにつながり、結果的にはCRPが上昇します。
新橋駅前・内幸町駅前に令和元年9月にヘルシーライフデンタルクリニックをオープンしましたが、早くも4か月で、歯周病治療によってCRPというタンパク質の数値が0になった1症例を経験しました。
これは高感度CRP検査といって、小数点第二位までを測定する血液検査ですが、指先からほぼ無痛で血液を採取して行う検査ですので、簡単にできます。
数値は全く炎症がない場合は0.01 mg/dl以下が正常値であると考えられています。
歯ぐきや歯の根の周りなどに細菌の感染があると、この数値は0.05前後の値になってきます(当然、この数値は全身に起こっている感染や炎症によって上がっている可能性もあります)。
当院にお越しいただいた患者さんのAさんは初診時に測定値が0.07 mg/dlでした。
歯周病の精密検査を行った結果、ほぼすべての歯の歯ぐきが少し触れるだけで出血を起こしてしまうような状態でした。
歯周病検査と高感度CRPの検査結果から、歯周病が全身にも影響を及ぼしている可能性があることをご説明し歯周病の本格的な治療を開始しました。
歯周病の精密検査から、歯ぐきの状態を診断し、全体のお口のクリーニングを行いました。
また、ご自身でも歯を綺麗に保つためのブラッシング方法をお教えし、ご自宅でも実践していただきました。
全体のクリーニング後には2回目の歯周病検査を行い、歯ぐきが出血しやすかった箇所がなくなってきていることを確認しました。
その時点でも出血傾向があったり、深めの歯周ポケット(潰瘍)が残存しているところについては、歯の根の面に付着している汚れを除去するSRPやデブライドメントという治療を行います。
その後、3回目の検査を行い、2回目の検査よりもしっかり改善していることが確認できたところで、高感度CRPの検査をしました。
その結果、0.07mg/dlだった高感度CRPの結果が0.01mg/dl以下の、測定不可能な域まで減少していました。
この方の場合は、まさに歯ぐきの炎症の影響で全身の方でも炎症が起きていたことが発覚した例でした。
全身の炎症が改善されることによって期待できることは様々ですが、慢性炎症の存在があることによって、インスリンとインスリン受容体の結合がうまくいかなくなることで、血糖値のコントロールに悪影響がでる可能性はあります。
また、歯ぐきの出血が起きると全身の血管に菌が巡ってしまうため、歯周病原因菌の一種であるP.g菌については、ジンジパインという特有のたんぱく分解酵素を持つことで血液脳関門というフィルターを破壊し脳内に侵入することができることが分かっています。
また、血管の中で菌を倒し続けていると、兵隊の死骸が蓄積して血管をつまらせる病気へつながってしまう可能性があります。
「ヒトは口から美しくなる」という当院の理念ですが、健康・美容の観点からもお口の中の機能を整えておくことは大事です。
栄養代謝、アンチエイジング、抗酸化、抗糖化という観点からもお口の中の慢性炎症を放置することはよくないでしょう。
お口の中は、お鼻の穴とは違って、人の手でクリーニングをしたり歯周病治療ができる、アクセスしやすい場所にある臓器です。
治療しやすい場所なんだからこそ、やるしかないでしょう。